彼を知り、己を知れば百戦危うからず!
まずはキリマンジャロを知ろう!
キリマンジャロ概要
キリマンジャロは南緯03°04′,東経37°21′の赤道直下である東アフリカのタンザニアとケニアとの国境に位置する円錐形の成層火山で,山脈に属さない独立峰としては世界一の高さである。最高峰のキボ峰はヒスワリ語で「自由」を意味するウフル・ピークと呼ばれる。山体は3つの火山体から構成され,西側には最も古いシラ峰(3,962m),中央の最も新しいキボ峰(5,895m),東側には険しい岩峰のマウエンジ峰(5,149m)が位置している。火山活動の始まりは約100万年前とされ,最後の大噴火は15万年~20万年前と推測されている。キボ峰の平坦な山頂には直径2km以上の陥没カルデラがあり,その内側に直径約900m,深さ約50mの火口と,その火口底にさらに直径約340m,深さ約130mの小火口をもつ。これまでに噴火の記録はないが山体は若く,現在も水蒸気などが吹き上がる噴気活動が続いている。
・キリマンジャロの氷河
キボ峰の山頂は氷河に覆われ,北側に位置する北氷雪原は現存するキリマンジャロ氷河のなかでは最も大きく,かつ連続した氷体を有している。かつては標高3,500m付近にまで氷河が伸びていた証拠が残されているが,19世紀以降の観察記録のある期間だけでも大幅に後退しており,またキボ峰の東端には19世紀後半まで連続した氷壁があったが,現在この地域での氷雪はほとんど観察されない。
・初登頂と世界遺産登録
キボ峰の初登頂はドイツの地理学者であるハンス・マイアー氏により試みられた。彼は1886年に標高5,500mまで到達し,3年後にオーストリアの登山家であるL.プルトシュラー氏と頂上(5,895m)に達した。キリマンジャロは1973年に国立公園へと指定され野生動物が保護されるようになった。その面積は756㎢におよび,山域全体を含んでいる。また,1987年にはユネスコ世界自然遺産に登録された。
キリマンジャロの気候帯
標高750~1,800m付近まではサバンナが広がっているが,1,800~2,800mの間は熱帯山地林帯となり,3,100m付近までの300mの間は雲霧帯となっている。その上部から4,000m付近までは高山帯が続いている。4,000~5,200m付近までは寒冷荒地となる。そして,5,200~5,300m付近を雪線として頂上のキボ峰(5,895m)までは氷雪帯となり,氷河が出現するようになる。
キリマンジャロの各気候帯の植生
1. 熱帯山地林帯(標高1,800-2,800m)
ここでは湿度の高さから,鬱蒼とした深い林冠の下に何層もの樹木が生育している。特筆すべきは樹幹や枝などを覆い尽くすほどのコケ類,シダ類,ランといった着生植物や幹をよじ登るツル植物の多さである。山地林帯はこのように多種多様なコケ植物などが繁茂するジャングルとなっている。
2. 雲霧帯(標高2,800-3,100m)
山地林にみられるような直立する樹冠の高い樹木は次第に姿を消し,背の低い灌木林へと植生が変わっていく。常に霧が立ち込めているため,幹や枝などの大部分は繁茂したコケ類や地衣類で覆われている。樹木の表面,岩石の表面などをよく観察すると,非常に多くの地衣類をみることができる。地衣類の種類は生育する環境により異なっており,地表面や岩石上,樹幹上,樹皮などに強固に張り付いている固着状のもの,葉状,枝状になっているものなど形状もさまざまである。また,スポンジ状から色鮮やかな黄~黄緑色をしてペンキを塗ったかのような種など、さまざまな地衣類を観察することができる。雲霧帯は標高3,100m付近で森林限界を迎えるが,ここで森林が忽然と途切れるというわけではなく,亜高山帯をへて高山帯に遷移する。そこではそれまで直立していた灌木が次第に矮性木化して散在するようになる。
3. 高山帯(標高3,100-4,000m)
この地域に分布する植物の多くは岩の割れ目などに生育している。比較的安定した岩盤や岩などの表面部分には,岩肌に黄~褐色っぽいほぼ円形に付着した多くの地衣類を観察することができる。この仲間は乾燥に非常に強い植物である。この他,植物体に付着するものもみられたが,乾燥と高湿度が繰り返される高山帯では,長期間継続する乾燥時期に水分吸収の面で非常に有利であるといえる。
・高山帯に生息する固有種
ジャイアント・セネシオは直立した茎と厚いコルク状の樹皮をもち,枯れた葉を茎の周囲にマントのように密に積み重ねることで,高い防寒性をもつ断熱層を形成していると推測される。また,大型の葉の表裏には細かい毛が密生しており,寒さや乾燥から植物体を保護していると考えられる。
ジャイアント・ロベリアも大型化して直立した中空の太い茎をもっており,茎の表面は弾力性のある薄い鱗状の樹皮で覆われている。この構造は断熱層と同様の役割を果たしていると推測される。また,葉の表裏は密生した絨毛に覆われおり,葉の重なり合う基部や頭頂部の生長点には水が溜まるようになっている。茎の内部の空洞には樹液として下から1/3程度が水で満たされており,外気温が下がる度に水の表層は0.5~1cm程度凍結するが,水の下層は凍らず内部を保護しているとともに,凍結の際に発生する潜熱により上部の空間が暖められるというメカニズムが確認されている。
両種とも沢沿いの斜面や岩盤の割れ目などが多い場所にある程度の密度で群生している。ルート上のバランコハット周辺は広大な谷になっており,そこでは両種の広範囲にわたる群落が形成されている。
4.寒冷帯(標高4,000-5,200m)
標高4,100m付近から寒冷帯(寒砂漠)へと気候帯が遷移し,4,600m付近で植生限界を迎え,約5,200mまでは荒涼とした岩稜帯や砂礫地帯が続くようになる。ここでは強風,乾燥,日中の直射日光や昼夜の激しい気温差に晒される過酷な立地環境となっている。ここに分布する植物は,背丈が5cm~10cm程度の個体が多く,植物体全体は密生した微細な毛に覆われ,小型で多肉的な葉をもっている。このような葉の形態は,乾燥への耐性,余分な蒸散の減少,強い紫外線などへの適応であると推測される。なお,これらの種の多くは岩盤の割れ目などに複数の個体が集合し,団塊を形成していることが多い。このような形態をとることは,強風に適応するうえで大いに高く評価されるものである。また,葉や茎がもつれ合った団塊状の形態になることで,昼間に受容した太陽熱は夜間になっても容易に発散されることはなく,団塊内部の温度を外気温よりも数度高く保つことが可能であると推測される。
5. 氷雪帯(標高5,200-5,895m)
氷雪帯の標高5,500m付近から出現する氷河の末端部付近では草本類などの植生は皆無であり,岩盤・岩屑の割れ目や間隙,表面上などに地衣類などが極僅かに生育するのみである。氷河の末端より上には地衣類などを含めた植生はまったく確認できない。
まとめ
キリマンジャロの高山植物はさまざまな環境因子から自身を保護する形態をもち,高山特有の過酷な環境に適応している。氷雪帯での植生分布の上限を抑えているのは主に氷河の存在であるが,高高度に起因するさまざまな環境条件も大きく影響している。しかし,近年の温暖化などの影響によりキリマンジャロ氷河は確実に後退しており,近い将来における消滅が危惧されている。気温の上昇は,植生をより気温の低い高所へと押し上げる要因となる。高山の植生は些細な環境の変化でも大きな影響を受け,一部の高山植物はキリマンジャロから絶滅する可能性がある。
このように,キリマンジャロでの植生と環境の対応関係を調査することは,地球規模での気候・環境変動,植物種の盛衰と遷移の過程,人間の活動が地球環境や動植物に及ぼす影響などを解明するうえで,大きな意義をもっているといえよう。
記事作成:キリマンジャロスタディツアーリーダー 金原 守人
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